譲渡比率と経営権
下記の図1のように、譲渡比率が高ければ高いほど、譲受企業の会社・事業に対するコミットメントは高まります。一方で、経営者様が売却後も経営者としての地位を継続する場合は、図2のように経営者様に対する法的・実質的な制約は強まり、譲受企業の意向に従うことが求められます。
譲渡比率が高いということは、実質的には譲受企業と一体になるということです。譲受企業はより「自分事」として御社の経営を支援してくれる一方、経営者様にとっての自由度は下がることとなります。


株式の譲渡比率を考えた場合において重要なのは、経営者様ご自身が今後も経営に携わるか、または退任するのかという点です。
ご自身が今後も経営に携わる場合、譲渡比率を上げれば譲受企業の協力を仰ぎやすくなりますが、その一方で経営者様ご自身の経営の自由度は狭まります。
また、経営者様に多少でも持分を残しておくということは、譲受企業にとっては譲受後であっても自社のコントロールが及ばない部分を許容することになるため、100%の場合に比べて譲受によるメリットは少なくなります。この場合、譲渡対価に対して少なからずマイナスの影響が出る可能性があるため注意が必要です。
退任または経営から退く場合
退任されるもしくは引継ぎ前提の顧問職に就くなど、譲渡後は経営から退かれる場合、基本的には100%譲渡を検討いただくのが良いかと思います。
社内に後継者がいない場合は譲受企業に経営を委ねることになりますので、株式を分散させ、新たな経営陣のオーナーシップが発揮しづらい状況をつくることは好ましくありません。
100%譲渡することによって譲受企業も対象企業の経営にコミットメントしやすくなりますし、逆に100%でない場合は買収の意思決定のハードルが高まることとなります。
譲渡後も経営陣として残る場合
譲渡後も引き続き経営陣に留まる場合は、譲受企業に何を求めるか(何のためにM&Aをするのか)によって考え方は異なってくるかと思います。
A:譲受企業に経営全般に関する支援を受けたい場合
「譲受企業のリソースを活用したい」「クロスセルによるシナジーを得たい」など、M&Aを検討する主な目的が経営に関する支援である場合、必ずしも100%の譲渡比率は必要ではないと考えられます。
経営者様が継続して事業を担っていく以上、M&A成立後の経営者様の経営への意欲やコミットメントは譲受企業にとっても重要です。譲受企業の規模や考え方にもよりますが、一定の株式持分を経営者様に残しておけば、業績が良くなった際に保有株式分に相当する値上がりの恩恵を受けることができますので、それによって経営者様の意欲を高めようと考えるケースは少なくありません。
B:譲受企業に資金的な支援のみを望む場合
経営体制は変えずに資金的な支援のみを望まれる場合は株式譲渡以外の選択肢も考えられます。
第三者割当増資
スタートアップ企業やベンチャー企業が、VC(ベンチャーキャピタル)等から資金調達をする場合に多く用いる手法です。第三者割当増資によって会社が調達した資金は事業のために使うことができ、銀行からの借り入れと異なり返済の義務はありません。
この場合、資金を受け入れることによって投資家に対して何%かの株式を発行することになります。経営、およびオーナーシップに影響が出るため、資本政策と事業計画をしっかりと結びつけた経営計画を策定し、それを元に適切な発行株式数を決めることとなります。
なお、M&Aによる株式譲渡と異なり、第三者割当増資ではオーナーである経営者様には一切資金は入らない点に注意が必要です。
100%またはマジョリティの譲渡
第三者割当増資は事業の将来性に基づき資金を募る方法ですが、業界や市場動向から将来性にそれほど期待が持てない事業である場合、第三者割当増資による資金調達は難しくなります。
その場合は、100%またはそれに類するマジョリティの株式を譲渡し、譲受企業から事業融資などを受けることによって資金を調達するという方法もあります。
このように、譲渡割合についてはM&Aの目的やご自身の経営への継続関与の有無、および自社の経営状態・魅力度などによって考えられる方法が異なってきます。
上記はあくまで基本的な考え方となりますので、自社に当てはめた場合はどのような方法が適切なのか気になるという方は、是非お気軽にご相談ください。
当社は着手金や中間料は一切いただいておりませんので、M&Aが成立するまで費用は発生いたしません。